Interview
インタビュー

高橋敦さん(トランペット)

2004年からSKOにご出演下さり、現在は2021年2月に国内ツアーを予定している“サイトウ・キネン・オーケストラ ブラス・アンサンブル”のメンバーとしてもご活躍されている高橋敦さん。リモート・インタビューの際、写真撮影も動画配信もないのに、フェスティバル・ポロシャツを着用してお話しして下さった優しさに、スタッフ全員が癒されました。

高橋敦さん

一人一人が持つ、一つ一つの音に対する熱量がものすごくて。

―OMFのポロシャツを着て頂いて、ありがとうございます! お部屋の窓には、OMFのミニ・トートやミニ・Tシャツも飾って下さっているんですね。

最近こういうリモート形式でレッスンなどをしますが、そこで見せるためにわざわざ飾ったわけじゃないんですよ。フェスティバルから帰って来たらすぐ飾っています。何年も、ずーっとこのままです。

―嬉しいです。さて、高橋さんがSKOに初めてご出演下さったのは2004年でした。

実は、初めて参加させて頂いた数年前から出演のオファーは頂いていたんです。僕は当時から東京都交響楽団に所属していたのですが、すでにSKOでトランペットを担当されていた方も都響の方で。都響の仕事もあるなか二人して夏に松本へ行くのは無理だったので、なかなか参加できないという年が続いていました。そうするうちに、この方が別の楽団に移籍されて、それで僕にお話が回ってきた、という感じです。それが2004年でした。

世界的にも大きなフェスティバルに声をかけて頂けることが、本当に光栄だと思いました。夢のようなオーケストラですから、参加することができて本当に嬉しかったです。実際にオーケストラの中に入った時の感動を、ものすごく覚えていますね。初めてのリハーサルで最初の音を聞いたときに、素晴らしいサウンドですごいな、と思った記憶があります。リハーサルの最初から完璧と言いますか。完璧というのは、演奏が完璧なのは当たり前だけれども、サウンドやバランス、音楽に対するキャラクター等がかなりの完成度ですでに出来上がっている、と言うか。音の厚みが本当にすごくて、まずはそういったことに感動しました。

―ご出演頂いたのは、大野和士さん指揮のコンサートでしたね。

オーケストラ コンサートと、オープニング コンサートの2つで演奏しました。ハンス・ガンシュさんや、ティム・モリソンさん(*1)もご参加されていた年でした。この年は、小澤さんと一緒に演奏はできなかったんですけど、サイトウ・キネン・オーケストラで演奏できたことは本当に幸せでしたし「うわぁ!」って感動したことは覚えています。あと『ヴォツェック』のリハーサルを観に行ったのも覚えています。ペットボトルがずーっと並んでるやつ(*2)。素晴らしかったです。

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高橋さんが初めてフェスティバルに参加した、2004年SKF オーケストラ コンサートでの1枚。後列左から2番目が高橋さん。

―小澤さんの指揮で演奏されたのは、SKO以外を含めても、翌年の2005年が初めて?

そうです。2005年はムスティスラフ・ロストロポーヴィチさんや、マーカス・ロバーツ・トリオが来日した年ですね。小澤さんの指揮で、マーカス・ロバーツ・トリオとガーシュウィンのピアノ協奏曲を演奏しました。トランペットは、ティム・モリソンさんとクリス・マーティンと僕の3人。2楽章にすごいトランペットのソロがあるんですけど、それをモリソンさんがコルネットで吹いてね。甘く、とろけるような素晴らしいソロで、うっとりした覚えがありますね。

小澤さんが指揮台に立つとオーケストラが一段とピリッとした、というのが第一印象です。"小澤さんがいるから僕らがいる"と言うか。小澤さんの元にみんなが集まってこの素晴らしい音楽をやっているんだな、というのをひしひしと感じました。一人一人が持つ、一つ一つの音に対する熱量がものすごくて。気持ちを込めて演奏しているというのが伝わるので、出てくる音も、それ以上のものがありました。色褪せることなく、毎年のように同じ感動を味わっています。

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2005年SKF オーケストラ コンサート。写真右手奥 チューバの前にいるのが高橋さん。マーカス・ロバーツ・トリオと共演したガーシュウィン:ラプソディー・イン・ブルー。

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2005年のリハーサル中。高橋さんから左に、クリス・マーティンさん、ティム・モリソンさんが並ぶ。

SKOにいると、世界のトップ・プレーヤーがいるブラス・セクションで、
その一員として演奏できるという、本当に幸せな経験が出来ます。

―SKOのブラス・セクションについて、思い出はありますか?

トランペット・セクションの遍歴として、フェスティバルが始まって何年か経ってからは、ティム・モリソンさんがトランペット・パートの中心的な存在でした。2005年に彼がSKOを引退するということで、世代交代の意味もあって色々な方がSKOにいらっしゃいました。その中に前述のハンス・ガンシュさんもいらっしゃって、一緒に演奏できたときは本当に幸せでした。モリソンさんもそうですけど、なんと言っても世界のトップスター、スーパースターですから。ガンシュさんと一緒にメンデルスゾーンの『エリア』を2週間にわたってやった年がありました(2006年)。小澤さんの指揮で、会場はまつもと市民芸術館でしたね。僕はフェスティバル直後にオーケストラ・スタディのCDを出す予定だったので、その選曲も兼ねて芸術館にこもりっぱなしで、練習していたんです。一人で練習していた時、ガンシュさんが一緒に、デュエットのように寄り添ってきたんです(笑)。例えば、マーラーの交響曲第3番のポストホルンのソロの部分。ソロパートなのでセカンドやサード・トランペットとかは無いのに、ガンシュさんがずっとハモってきたんですよ。普通に練習していたらいつの間にかハモってきて、ものすごく美しいデュエットになって。最後まで吹き終わったあと、2人で目合わせてニヤーッて(笑)。すごく楽しい時間だったし、幸せでした。
彼もお忙しい方なので、最近は彼のお弟子さんでもあるガボール・タルコヴィさんがご出演されていますね。小澤さんもよくベルリン・フィルで指揮されていましたから、その流れでガボさんがいらっしゃったんじゃないのかな。いまのトランペット・セクションは、彼を中心に動いているという感じですね。

SKOにいると、世界のトップ・プレーヤーがいるブラス・セクションでその一員として演奏できる、という本当に幸せな経験が出来ます。なかなかできない経験ですし、自分にとってものすごく勉強にもなります。心から楽しめる場なので幸せです。

―特に印象に残っている演奏会は?

ほとんどの公演が思い出ですね。どれか一つとは、選べないです。僕だけじゃないと思いますが、毎年毎年、松本で過ごす1カ月間を本当に楽しみにして、1年間を過ごしていると思います。
あえて挙げるなら、2008年のヤナーチェクの『利口な女狐の物語』かな。曲の途中に、ものすごい高いレの音をピアニッシモで伸ばすという難所があるんです。その部分をリハーサル中に小澤さんから「ちょっとやってみて」と言われ、一人だけで吹かされた時はビビりました(笑)。ちゃんとできたので良かったんですけど、この時のことは忘れられないですね。『女狐』はものすごくきれいな曲でステージも美しくて、本番も感動的でした。

僕自身が、ある意味一人のファンとして考えながら、編曲しています。

―2021年2月に全国ツアーを開催予定のSKOブラス・アンサンブルについてお伺いします(*3)。まずは始まった経緯を教えて下さい。

6年前くらい前のフェスティバル期間中に「来年のふれあいコンサート(室内楽公演)で、ブラス・アンサンブルをやってもらえないか」という話が出たんです。フェスティバルの室内楽公演には僕もブラス・クインテット(五重奏)やブラス・カルテット(四重奏)で出演させて頂いた経歴があったので、当初は「(会場の)ザ・ハーモニーホールは中ホールだし、クインテットでどうかな?」という話になりました。でも金管アンサンブルの醍醐味は、例えばルネッサンス時代の舞曲、言うなれば古(いにしえ)のダンス・ミュージックから、バッハやヘンデル、ヴィヴァルディといったバロック音楽、ブラスならではの行進曲、ポップス、ジャズなど、いろんなレパートリーが楽しめること。そうなると、やっぱり人数が多くて大きい編成の方が選曲の幅も広がるということで、12人編成になりました。

実は12人編成って珍しいんです。SKOブラス・アンサンブルならではですね。打楽器も入れることによってよりバンド感が出てくる。もしくは、バロック音楽をやっても支えるティンパニが入ると幅が広がります。
ブラス・アンサンブルっていうと、"ブラス・クインテット"が主流であるのと同時に、イギリスの「フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル」っていうのが確立した "ブラス・テンテット"(十重奏/トランペット4、ホルン1、トロンボーン4、チューバ1)がスタンダードなんです。ですが、我々はSKOのブラス・セクションという意味で、オーケストラのブラスの編成をそのままブラス・アンサンブルにできたら面白いんじゃないかと思いました。例えばホルンはハーモニーを作る楽器でもあるので、ラデク・バボラークさんも「一人ではなく、セクションで参加したい」となって。それでこの編成に落ち着きました。

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2019年2月に全国7都市を回ったSKOブラス・アンサンブル。仲が良いのが伝わってくる。

―SKOブラス・アンサンブルの最初の公演は2015年のふれあいコンサートでした。高橋さんは編曲もご担当されていますが、その際に気を付けていることはありますか?

2015年の公演は、ありがたいことにものすごく良い反響を頂けました。そこで、このフェスティバルやSKOのことをもっと多くの方々に知ってもらいたいと思い、全国を回って演奏会をしたいと考えました。ブラスの人数だけだと動きやすいですしね。
演奏会のコンセプトは、すでにフェスティバルのファンでいらっしゃる方々に楽しんで頂けるような本格的なクラシックを演奏しつつ、オーケストラを今まで聴いたことがないとか、クラシックはちょっと敷居が高いと感じていらっしゃる方にも足を運んでもらえるような親しみやすいポップスも入れて、とにかく聴いて楽しんでもらえるものを目指しました。僕らの演奏会を楽しんでもらえたら「じゃあ今度は松本に行ってみようかな」っていう気持ちに繋がるんじゃないかな、と。ガボさんとバボラークさんを中心に小澤さんとも話し合って、そこで小澤さんから「ぜひやってみよう」というお言葉を頂いたので、ツアーが決定しました。

選曲に関しては、メンバーがそれぞれ所属しているブラス・アンサンブルで演奏してきたレパートリーを組み込みながら組み立てました。僕は編曲もしていますが、苦労はないです。逆にすごく楽しいんです。曲を書きながら誰が演奏するかを頭の中でイメージするので「彼が演奏するとこうなるだろうな」、「この旋律は彼にやってもらいたいな」、「この打楽器を入れてもらいたいな」とか、色々考えます。初日の練習で実際に音として現実化される時にすごく良い音がすると嬉しいなと思いながら、編曲しています。そして実際、良い音がするんですよね。

編曲の際には、メロディーや演奏するのに大変な部分をうまく分散するのが一つのポイントになってきます。SKOブラスにはスター・プレイヤーがたくさんいますので、そういう人たちの活躍の場も作ります。僕自身がある意味一人のファンとして「この美しいメロディーはラデクさんに吹いてもらいたい」、「この旋律はガボールさんで聴きたい」とか考えながら、編曲しています。

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2019年SKOブラス・アンサンブル ツアー時の高橋さん。

―2021年ツアーでの聴きどころは?

今回は、ヘンリー・パーセルのオペラ『妖精の女王』でスタートする予定です。前半の最後にはプロコフィエフの『ロミオとジュリエット』からも演奏します。フル・オーケストラの曲ですから演奏するほうも苦労がいっぱいあると思うのですが、楽しんで頂けると思います。
後半はいろんな方に楽しんで頂けるような曲を、と思っています。メインはガーシュウィンの『ポーギーとベス』からの抜粋で、かなりの大曲に仕上げました。捨てがたい曲ばかりでこの曲もこの曲もってチョイスしていったら、どんどん増えていきました(笑)。楽しんでいただけると思います。

SKOブラスのメンバー、パーカッション&ティンパニ担当の竹島悟史さんが、今回はピアノも演奏されます。彼は超有名な打楽器奏者だけではなく、作曲家であり、編曲家であり、超有名なピアニストでもあるんですよ! 今回はガーシュウィンで、ものすごく活躍して下さいます。いつも以上にブラス・セクションの後ろを走り回ってくれると思います(笑)。耳だけでなく目でも楽しめますね。

なかなか演奏会が思うようにできないご時世なので、本当にこのツアーが実現できるよう心から願っています。今年は夏のフェスティバルが残念ながら中止になってしまったので、2月でバトンをつないで、来年の夏に良い形でOMFが開催できることを願っております。

―ありがとうございました。

*1:ハンス・ガンシュさんは、ウィーンフィル・ハーモニー管弦楽団で首席トランペットを務められた奏者。ティム(ティモシー)・モリソンさんは、ボストン交響楽団首席トランペットを務められた奏者。
*2:2004SKF で公演されたオペラ、アルバン・ベルク:『ヴォツェック』は、建築家の安藤忠雄さんが舞台デザインを手掛けられた。膨大な数のペットボトルが並ぶ舞台は圧巻の一言。
*3:2021年2月に全国数か所で開催を予定しているSKOブラス・アンサンブルのツアー。公演概要・チケット発売についてはOMF公式ウェブサイトにて随時発表。

インタビュー収録:2020年7月
聞き手:OMF広報 関歩美